Sunday, Monday, Tuesday, Wednesday, Thursday, Friday, Saturday, 01-12-2008
その3 無音の世界で
テコパとシュショーニの間に信じられないものをみつけた.Hot Spring-温泉だ.こんな所に温泉があるとは!その施設の周りには何台かのキャンピングカーが停まっていたので,ある程度有名らしかった.全く計画の無い旅で温泉を見つけるとは,なかなかついていた.温泉にはまた後で来ることにして,そのままシュショーニを目指した.シュショーニはテコパよりは大きな街だった.小さなレストランもあるし,ガソリンスタンドもある.デスバレー国立公園の入口の街だ.
シュショーニからテコパへ帰る途中,ターセルを降りて散歩をした.周りはひたすら砂漠.しかし,砂の砂漠ではなく,ごろごろと岩が転がっていて,短い草も生えていた.僕が求めていたサボテンはなかった.ターセルを道端に止めて,少し道から離れて行った.不安になるので後ろを振り返りつつ.しばらくしてなぜそんなに不安になるのかが判った.
全く音が無い世界に僕はいた.音はしているが聞こえていないのではなくて,全く音が存在しなかった.風も吹かず,動いているものは何もない.道はまだ見えたけれど,シュショーニを後にしてから車を一台も見かけていなかった.
暗闇で何も聞こえないというのは不思議な感じはしない.目にはいろいろ見えているのにそこに付随すべき音が全くしない,というのがとても怖かった.僕はこんな場所にいていいのだろうか?こんな場所で何をしているのだろう?
10年たった今でもこの旅のことを思い出す時に,最初に思い浮かぶのはこの時見た風景と,その風景に音が無かったということだ.ターセルがとても頼もしく思えた.
その時僕は30分程砂漠に座っていた.一度音の無い世界を事実として受け入れてしまうと,不安は少し和らいだ気がした.ターセルが見える所にいれば大丈夫・・・だんだん暗くなっていくその無音の世界でいろいろなことについて思いをめぐらせた.
自分の鼓動と呼吸の音以外は完璧な無音だった.その時思ったこと,考えたことは今となっては色あせてしまったけれど,その無音の世界は今でも僕の心の中にはっきりと残っている.
その日の夜,温泉に向かう途中,ターセルを停めてもう一度無音の世界に行ってみた.そこは一面の星空だった.僕の五感が届く範囲には音を出す物が全くない場所で,もちろん月と星以外の明かりはない.こんな圧倒的な星空は見たことがなかった.僕はその世界でひとりぼっちで,それがすごくうれしかった.長い一日だったけれど,ベッドの中で雨の音を聞きながら砂漠に行こうと決めてから,12時間程しか経っていなかった.明日になるのが待ち遠しかった.
・・・
追記
・テコパの温泉は屋内プールになっていた.アメリカでは珍しく,水着の着用禁止の温泉プールは,なかなかの広さだったけれど,やっぱり誰もいなかった.デスバレーはとにかくひとりになるにはうってつけの場所だった.
・この温泉の入場は無料だった.
・結局デスバレーには予定より多く4泊した.デスバレー自体は国立公園になっているのである程度観光客も多くいる.しかし全体が広いので比較的行き易い有名なスポットを除けばやはりほとんど人がいない所だった.建物の残骸だけが残っているゴーストタウンが幾つかあった.
・ターセル1:この旅でのターセルの走行距離は2000マイルにもなった.5日間で3200キロ運転したことになる.
・ターセル2:全く車を見かけけないまっすぐな道で、僕のターセルの限界に挑戦してみた.時速95マイルが出たけれど,ターセルはまだがんばれたけれど,僕が怖くなったので,100マイルには届かなかった.
・ターセル3:この旅の途中で,ターセルの総走行距離が123456マイルになった.2003年に泣く泣く手放した時には17万マイルになっていた.