Sunday, Monday, Tuesday, Wednesday, Thursday, Friday, Saturday, 08-02-2008
はじめに
2008年7月30日に次男,慶悟(けいご)が生まれた.これはその時の記録.僕はヴァンダービルト大学に勤めているので,まりの産婦人科もうちの大学.僕のオフィスから近いのでいろいろ便利だ.
当日の朝まで
出産予定日は8月6日(水)だったけれど,8月2日(土)に陣痛促進剤を使って予定出産をすることになっていた.7月21日(月)の検査で子宮底長がその前の測定値よりも短くなったので念のため超音波検診をすることになった.7月28日(月)の超音波検診で,何も問題はなかったけれど,逆子ということも判明した.最後の最後になってひっくりかえっちゃったのかな?
予定出産の日には硬膜外麻酔の後に赤ちゃんを回すの(通称:ぐるぐる)を試してみて,もし治らなかったら帝王切開ということに決まった.
あと1週間という頃になったけれど,あまり生まれる兆しはなくて,毎朝「今日生まれそう?」「まだ」という会話が繰り返された.
最後の検診
最後の検診は7月30日(水)の午後3時半からだった.その日の2時半にまりから電話がかかってきた.「何となく今朝からおなかが痛くてもしかして陣痛かもしれない」ということだった.運転させるのが少し不安だったので,急いで迎えに行った.雷雨だった.
家でUターンをして大学に戻って,産婦人科に着いたのはちょうど午後3時半だった.すぐに診察室に入れてもらえたけれど,そこでかなり待たされた.どうやら夏休みをとっている先生が2人ほどいるらしい.長く待たされることなんか今まで全くなかったのだけど,この日はいつまでたっても診察が始まらなかった.
妊娠後期になると,担当の医者以外の先生に診察してもらうことが多くなる.これは,赤ちゃんを取り上げることになるのはその日 On call (当直)の医者になるので,産む日が初対面ということにならないように,なるべく多くの先生と顔見知りにはなっておこう,という意図がある.この日の診察も担当の医者ではなかった.
4時過ぎまで待たされたので「軽い陣痛が来ているんですけど!」と,診察室の外を歩いていた看護婦に伝えてみた.確かに陣痛は来ていたけれど,まだ痛みもあまり激しくないし間隔も長い.ただ,そうでも言わないといつまでも待たされそうな感じだった.
高をくくる
4時半頃から,陣痛の激しさを測定する器械で陣痛の間隔と大きさを計った.20分ほど測定して,どうやら本当に陣痛が来ていることが判明した.さほど痛みを伴わないのを含めると間隔は10分弱だった.でも,この時はまだ「一度帰宅して様子を見なさい」と言われるのかな,と思っていた.まりによるとまだあまり痛くないということだった.
本当はこの日は簡単なチェックだけだと思っていて,遅くても5時には病院を出ることができると思っていた.高をくくっていた.水曜日は泰河がデイケア(保育園)に行く日なので,6時までに迎えにいかなくてはいけない.余裕を見たら遅くとも5時15分にはここを出たい.
陣痛が来ていることが判ったけれど,詳しい診察までまた少し待たされた.もし,今日帰らずに産むことになるのだったら,なるべく早く泰河を迎えに行ってなるべく早くここに戻ってきた方が良い.そう思ったので,5時少し前に僕は病院を抜け出して泰河を迎えに行った.「6時頃には戻ってこれるだろう」
緊急Uターン
病院の駐車場を出るのに思ったより時間がかかったりで,5時10分にまりから電話がかかって来た時,僕はまだ大学のすぐ近くにいた.電話の内容はちょっと予想していたものと違った.「今もう,子宮口が9センチ開いてて,今すぐ出産だって!あ,もう行かなきゃ」(がちゃ)
僕は大急ぎで引き返した.KFC の駐車場を使ってUターンをした.駐車場に車を止めて走って診察室に戻ると,もうそこにまりはいなかった.看護婦さんが出てきて,もう出産する部屋に行ったと教えてくれた.違う建物 (Medical Center East) の4階.なんとかまりの居場所を突き止めた.まりは出産の準備をする部屋で数人の看護婦さんに囲まれていた.
僕を見ると,まりはちょっと驚いた様子だった.すぐに帰ってくるとは思っていなかったらしい.
もう(ぐるぐるで)逆子を直している余裕はないので,逆子のまま産むか帝王切開かの選択を迫られた.逆子のままの出産は100に1の割合で何らかの問題が出ると説明を受けた.さらに,もう9センチも開いているのでエピデュラル(硬膜外麻酔)による無痛分娩は(たぶん)無理と言われた.2日前に逆子と聞いてからある程度覚悟は出来ていたので,帝王切開を選択した.
泰河
この時,僕もまりも「泰河をどうしよう?」と悩んでいた.誰かに迎えに行ってもらわなくてはいけない.6時までに行かなくてはいけないので,ある程度デイケアの近所に住んでいる人でないといけない.この切羽詰まった状況の中で,まりはなんとか,すぐ連絡がついてすぐ迎えに行ってもらえそうな人を一人挙げて僕に名前を教えてくれた.僕が,直接面識のないその人に電話したのは5時32分だった.幸い,その人は在宅中で,すぐに泰河を迎えに行ってくれることになった.早口でデイケアの場所を説明した.デイケアにも電話をして,迎えに行く人の名前を伝えなくてはいけない.その後もう一度,暗証番号などの詳細を伝えるために電話をした.
もちろん,僕が電話をしている間も出産の準備は着々と進んでいた.麻酔についての説明やら署名やら.帝王切開自体についての説明やら署名やら.帝王切開でも手術室まで付き添いで行けるので,僕もそれように白衣を着なくてはいけない.まりが手術室に移動する時に,僕は準備室で待つように言われた.麻酔が終わってから呼ばれるのが普通らしい.でも「通訳としてなら最初からいていいよ」と誰かが機転を利かせて言ったので,ずっといっしょにいられることになった.
手術室にて 麻酔チーム
手術室に入ると,麻酔チームと手術チームとが入り乱れていた.まだ準備が整う前,6時2分に電話がかかってきて,泰河をデイケアから受け取ったという報告を受けた.とりあえず一安心だ.後から聞いた話によると,車の中でずっと大泣きだったそうだ.いきなり知らない人が迎えに来て車に乗せられたら,泰河でも泣くということがわかった.6時半頃家に着いて,日本から来ているまりの母親の顔を見てようやく泣き止んだ,ということだった.
さて,大学病院なので,新米のお医者さんの教育機関でもある.医師免許は持っているけれどまだ研修中の身という医者 (resident レジデント) がたくさんいる1.
麻酔チームも,実際に脊椎麻酔を入れるのは,レジデントの若者だ.横で年配の医者がいろいろと指示を出している.「そうじゃなくてさ...」という言葉が出たりするので,ちょっと怖い.その年配の医者が部屋を出ていた時に二度,まりを飛び跳ねらせるほどの痛みが襲った.麻酔の針が変なところに刺さっちゃったんだろうな.困るなぁ.そのレジデントは麻酔にかなり手こずったけれど,指導医が戻って来て一言二言指示を出すと,すぐに成功した.
手術室にて 手術チーム
手術チームの指導医も年配の貫禄たっぷりの医者.でも鼻歌まじりで陽気な感じだ.こういう医者が多い.患者をリラックスさせるために意識してやっているんだと思う.
手術台のすぐ横に椅子を置いてくれたので,僕はそこに座っていた.まりの胸のところでカーテンをしたので,もちろん切開して赤ちゃんを取り出すところは見れない.手術をしている人たちの会話は全て聞こえるけれど.部分麻酔だけなので,まりも意識はしっかりとしている.「がんばろうね」と会話をしていた.切られている痛みは感じないけれど,押されているのは判るらしい.
「がんばろうね」と言ってはみたけれど,手術中は特にがんばることはない.まりががんばるのは産後だ.僕は指導医とレジデントの会話をしっかり聞いていた.「はい,手をひっぱって」とかそんなことを言っていた.あとはひたすら褒めていた.褒めて伸ばす指導法だ.
6時32分に赤ちゃんが取り出された2.赤ちゃんはすぐに部屋の隅にいた小児科チームに引き渡された.産声が聞こえた.
生まれたよ
まりの胸のところでカーテンをされたので,まりの足側にいた小児科チームの方には行けなかった.その場で動かずにいたら「お父さん,カメラ持ってこっちに来て!」と呼ばれた.今日出産するつもりは全く無かったけれど,最近まりは毎日カメラを持ち歩いていたので,生まれたばかりの慶悟の写真を撮ることができた.僕がカメラを構えると小児科チームは手を止めて,写真に写りやすいように向きを変えてくれた.写真を撮り終えて振り返った時に,カーテンに隠れていたまりの胸から下が見えてしまったけれど,僕はそういうのが苦手なのですぐ目をそらした.
雷
生まれたての慶悟はすぐにまりの胸に抱かれた.母と子(と父)が生まれてすぐに触れ合う時間だ.その後,僕と慶悟は新生児室に移動した.体重と身長を測定とか,予防接種の説明があった.8時少し前に,まりが手術を終えて,出産前にてんやわんやした部屋に戻って来た.8時半には入院用の部屋に移動した.
9時半頃に,滞在中に必要な物を取りに一度帰宅した.泰河は,普段の就寝の時間をすぎていたけれどまだ起きていた.雷が激しい夜だったので怖かったのかもしれない.泰河にはかわいそうな思いをさせてしまった.いつになくぎゅうっと抱きついて来た.添い寝をして寝かしつけようとしたけれど,眠れなかったようだ.仕方が無いので,泰河を寝かさずに病院に戻ることになった.あまり寂しくて泣くということはないので,この時も「泰河バイバイ」と言うと,泰河もちゃんと「バイバイ」と手を振った.
産後の痛み
当たり前のことなんだけど,産後,まりはいろいろな痛みに襲われた.帝王切開で切ったところの痛みと子宮収縮の痛みだけど,後者の方が激しいようだ.「ビキビキ痛い」と言っていた.定期的に痛み止めを飲みつつ,速やかに普通の生活に戻れるようにかなり強制的に回復させられる.
帝王切開後の退院は産後72時間だ.普通に出産した場合は48時間.それより長く病院にいると超過分は保険が効かない.日本だともう少しゆっくり病院にいられるようだ.でも日本だと相部屋ということもあるようだ.それはここでは考えられない.
部屋に,担当の看護婦の名前なんかが書いてあるホワイトボードがあって,そこに看護側のゴールが書いてある.それによると "out of bed in 4-6 hours".帝王切開の後6時間以内にはベッドから起き上がらなくてはいけない.トイレに行くということ.まりの場合はその6時間後が真夜中だったので,ベッドから出るのは少し先になった.
痛み止めが効いているうちはいいけれど,効き目が薄れると相当痛いようだ.でも,産後3日目には家に帰るのであまりのんびりとはしていられない.
産後2日目には部屋の外に散歩に行くように言われた.
割礼
アメリカでは,男の子は割礼をすることが多い.昔は アメリカ小児学会が推奨していたのだけど,医学的な利点が不明瞭とのことで,今は親の選択に任せる,ということになっている.泰河の時もしたし,慶悟もした.
生後2日目の金曜日に行われた手術は比較的シンプルで,まりの散歩も兼ねてふたりで見に行った.泰河の時は僕だけ観察した.シンプルな手術と言っても,もちろん慶悟は泣くし,少しだけど出血もあるし,器具も結構物々しい.後から聞いたのだけど,割礼を見に来る親はどちらかというと少数派で,ふたりそろって見るのはさらに少数だということだ.まりは椅子に座って見ていたけれど,よく見えない時は立ち上がって見ていた.最初から最後までで10分強だった.
産婦人科の先生がとても良い人で信頼しているけれど,子供の手術を親に公開して行う,というのはとても良いことだと思う.見えないところで何か怖いことをされていたら嫌だからね.
退院
産後3日目の土曜日に退院した.出産が夕方だったから夕方までいてもいいのだけど,退院の手続きは全て午前中に終わった.すぐに退院しなくてもいいよ,とは言ってくれたけれど.結局予定通りのんびりして,午後4時頃3人で家路についた.(慶悟誕生の話 終わり)Jason Bay がトレードされたので泣いている.
ー付け足しー
1Residents : レジデントを拒否することも出来る.僕は,患者が自分の場合はレジデントでもいいけど,泰河の場合は「レジデントじゃない人がいいな」と伝えることにしている.今回も言えば良かったんだけど,なんとなく忘れた.ま,立派なお医者さんになってくれるといいね.
2赤ちゃんが取り出されている時に僕の携帯電話が鳴った.マナーモードにしているから音は鳴らなかったけれど.着信履歴によると,ほんとにぴったり出産の時刻だった.後で見てみたら知らない番号だった.次の日に同じところからかかって来た.何かのセールスのようだった.誰かが間違えて僕の番号を登録したのか.
魔方陣作成機 で作ったお誕生おめでとう魔方陣.
足し算
20 | 08 | 07 | 30 |
35 | 2 | 9 | 19 |
6 | 22 | 32 | 5 |
4 | 33 | 17 | 11 |
掛け算
20 | 08 | 07 | 30 |
35 | 6 | 4 | 40 |
24 | 140 | 10 | 1 |
2 | 5 | 120 | 28 |
コメント
早々のレポート、読ませていただきました。
帝王切開、大変でしたね。
おめでとうございます!
これからも育児日記楽しみにしております.
泰河君からはおにいちゃんの雰囲気が伝わってきております.
おめでとうございます.
慶悟くん、誕生おめでとうございます。たいちゃんもママのおなかの中身、ようやく見れましたね。↑の写真見ると慶悟くんってお父さん似ですか??
これからますますにぎやかな家族になりますね。そちらに戻ったら慶悟くんに会いにお邪魔させてくださいね。
まりさんも、びいたまさんもたいちゃんも、お母さんもみんなお疲れ様でした。そして本当におめでとうございます!!!!
久々にブログのぞかせてもらったら!
おめでたい内容でこちらも幸せになりますね。
奥様は本当にお疲れ様でした~。
僕はまだ子供いないんで、羨ましいですな。
皆様,ありがとうございます.
やっと家に帰ってきてほっとしています.
慶悟は泰河の若い頃によく似ています.
慶悟ちゃん、泰河ちゃんの健やかな成長と、びいたまさんの育児、統計の益々のご活躍を祈念しております。
慶悟くんの、お誕生おめでとうございます!
奥様、出産ご苦労様でした。
ドラマティックな出産記録読ませていただきました。本当に色々急で大変でしたね。お疲れ様でした。
お子様が2人になり、てんてこ舞いだと思いますが、どうぞお体にお気をつけてお過ごし下さい。
鴨統計様,育児での活躍がんばります!
まえだこう&奥様,もう少しノーマルな出産を目指していたのですが,ちょっと予定とはかなり違うことになりました.
無事に終わったようでなによりです。
家族が増えてもっと楽しくなりますね。
あきひろさん,ありがとう.
家族増えたなぁ.当初の倍だ.
慶悟くんのご誕生おめでとうございます!
より一層、温かく幸せな家庭になりますね!
誰から聞いたのか覚えてませんが、クリスマスの日の場合、ジングルベルを流しながらとか医者が手術するとか、トナカイの耳をかぶりながら看護婦が手伝う、ということがあるそうです。でも、知り合いの看護婦に聞くと、音楽を掛けるのは結構普通だそうです。
病院,手術室でジングルベルがかかっていても全く不思議でありませんね.そういう雰囲気でした.
日本人だと「もっとまじめにしろ!」とか「不謹慎な」と思ってしまうかもしれませんが,そうう意見はここではきっとあまりないのでしょう.